虹色の時間

おいしい感動とともに迎える朝、そんな幸せをお届けしたい。
そんな想いをつむぐ総支配人・総料理長の山口浩さんが、
日本で先駆けの都市型オーベルジュとしてオープンされた神戸北野ホテル。
フランス料理界の巨匠、ベルナール・ロワゾー氏から受け継いだ「世界一の朝食」をはじめ、
美しく、体に優しい料理はまさに芸術のようです。
今回は春の神戸に山口 浩さんをお訪ねし、お話を伺いました。

キュイジーヌ・アロー~水の料理~、そして伝説のシェフ、ベルナール・ロワゾー氏との出会い

「師のロワゾー氏は、私自身は“料理界のピカソ”という印象でした。」と山口さん
「師のロワゾー氏は、私自身は“料理界のピカソ”という印象でした。」と山口さん
伝説のシェフ、ベルナール・ロワゾー氏と。
伝説のシェフ、ベルナール・ロワゾー氏と。

家業が食堂だった山口さん。幼い頃からお越しになるお客様がお食事を召しあがって、どんどんお話が弾み、笑顔になられるのを見て「食事は人を幸せにすることなのだ。」と感じ、ごく自然に料理人の道へ進みます。ご縁あってホテルのフランス料理店のシェフとして就職。異国人が異国の料理を作るというコンプレックスを払拭するため、本場フランスへ修行に出ます。パリのレストランで技を磨く日々のなか、バターを使わず素材の味を引き出す新しいフランス料理“キュイジーヌ・ア・ロー(水の料理)”の話を耳にし、向かった先は、パリから280kmほど離れた「ラ・コート・ドール」。そこは“料理界のモーツァルト”と呼ばれた伝説のシェフ、ベルナール・ロワゾー氏のオーベルジュでした。味わった料理にカルチャーショックを受け、門を叩いて弟子入りが叶います。ある日、山口さんのポワローネギの千切りを見たロワゾー氏は、その繊細で均一に切り揃えられた技に惚れ込み、「ストーブ前」という料理人の花形ポストに大抜擢。ロワゾー氏の日本出店に際し、料理長として帰国しました。

生き生きとした素材の味わいに溢れたオーベルジュの朝食

伝説のシェフ、ベルナール・ロワゾー氏と。
ディナーを愉しめる空間が心地よいレストラン「アッシュ」(写真)
”世界一の朝食”の提供ダイニング「イグレック」
ディナーを愉しめる空間が心地よいレストラン「アッシュ」
2023年4月のリニューアルで、さらに魅力アップ。
身も心も預けたい珠玉の時を過ごす室内

ロワゾー氏のオーベルジュで提供される朝食は、一流のホテル・レストランのみが加入できる世界的な非営利会員組織「ルレ・エ・シャトー」に“世界一の朝食”と認められたもの。初めて味わった時、山口さんはその世界感にすっかり魅了されたと言います。「コンフィチュール(=ジャム)は、日持ちする保存食ではなく、フレッシュで果実の持ち味そのものが生きている。花の香りがする栗のハチミツと酸味の効いたヨーグルト…言葉にできない驚きでした。」
また当時は、“モンテ・オ・ブール(ソースの仕上げにバターでコクを出す)”と“ア・ラ・クレーム(煮汁などにクリームを入れて仕上げる)”こそ、フランス料理の王道の時代でした。「“もっとバターを”というのが常識のところに、真逆の発想のロワゾー氏のフレンチがいっそう新鮮に思えました。」
ロワゾー氏の日本店は、阪神大震災などの事情もあり閉店。ある時、同じく震災で休業していた旧神戸北野ホテルと出会い、恩師の料理がもたらす感動、そして料理を目的に泊まるという愉しみをご提案するオーベルジュをオープンすることに。それが現在の神戸北野ホテルです。
オーベルジュで“24時間おいしい”を味わう時間のなかでも、朝食はクライマックスといえるほど大事です。「あの感動を、あの朝食を日本で再現し、フランスの料理と食文化を伝えたい。」と山口さんは意を決して、フランスの恩師のもとへ。「やってみなさい」と快諾され、公式に認定を受けることに。情熱と信頼が生んだ師弟の絆と志は、今に受け継がれています。

幸せな朝を迎えるということ~世界一の朝食~珠玉の時を過ごすオーベルジュ

醇なバター香るクロワッサン、兵庫県産栗のハチミツ果実感あふれるコンフィチュール。どれからいただきましょう?
芳醇なバター香るクロワッサン、兵庫県産栗のハチミツ、
果実感あふれるコンフィチュール。どれからいただきましょう?
パッション、セロリ、マンゴー、キャロット、白桃ライム…5種のヘルシーな「飲むサラダ」
パッション、セロリ、マンゴー、キャロット、白桃ライム…
5種のヘルシーな「飲むサラダ」

朝の光に映える、“世界一の朝食”の魅惑的なこと!まずは、看板メニューの「飲むサラダ」を。元祖ロワゾー式にはない、山口さんのオリジナルです。「『朝食にサラダが欲しい』というお声を受け、野菜やフルーツのフレッシュジュースにすることを思いつきました。」サラダを付けないコンチネンタルスタイルの流儀を守りながら、彩り豊かに迎えてくれます。ヨーグルトやコンフィチュールも、山口さんのかつての感動を映したおいしさです。
“世界一の朝食”は師の志を受け継ぎながらも、時代とともに進化し続けています。コロナ禍に見舞われた時、「何かできることはないか」と模索していた山口さんは、行先がなくなった神戸産イチゴが廃棄されるという新聞記事を見かけて、「コンフィチュールの技を生かせる」と農家から全量買い取り、朝食メニューや瓶詰でのご提供を始めました。地産地消が注目される時流のなかで、山口さんの地元の食材を守る活動は多彩に広がっています。また、通常の朝食メニューのほかに、地元のフレッシュなイチゴのコンフィチュール、神戸ポークのパテ、丹波地鶏のハムや半熟卵などを使った「ひょうごレーズ朝食」も取り入れています。

食文化を発信、未来をクリエート。挑戦は続く

明石の海で水揚げされた魚と菊菜を使った一皿。ランチやディナーのコースでご提供
明石の海で水揚げされた魚と菊菜を使った一皿。
ランチやディナーのコースでご提供
食文化を発信、未来をクリエート。挑戦は続く
※画像はイメージです

土地の気候や環境、地質、歴史文化のすべてが食とつながっている、と山口さんは言います。「食べることって、生きること。味覚や嗅覚だって命を守るためのものです。山と海に囲まれた日本は約2,500種類もの食材に恵まれ、発酵調味料をよく使うのも温順な日本だからこそ。その地で食べられているものには、すべて理由や背景があるのです。だからこそ、命を守る食や固有の食文化を大切にしたいと強く思います。」
自然や食材を守り伝える多彩な取り組みを続けるなかで、明石の海の魚、素晴らしい塩が採れる海水など、数多くの魅力的な地元食材と出会った山口さん。神戸北野ホテルでも、豊かな食文化を未来へ伝える取り組みを盛り込んだメニューをご提供しています。「オーベルジュでお客様に幸せな時間を過ごしていただくのが、私たちの願いです。その幸せと、生かし生かされる多くの人々の幸せがつながれば、もっと素敵だと思いませんか?」屈託ない笑顔の奥に、“食で人を幸せにする”幸せクリエーターとして、未来を見すえる志が宿っていました。この春、幸せを広げる“世界一の朝食”と出会いに、神戸へ出かけませんか。

素材を生かした塩は、瀬戸内の海水からオリジナルの製造。
素材を生かした塩は、瀬戸内の海水からオリジナルの製造。
山口 浩さん

山口 浩さん

1960年兵庫県生まれ。神戸北野ホテル総支配人・総料理長。フランス料理界屈指の卓越した技能を持ち、食レシピ開発やプロデュースも手がけるなど、幅広い活動を展開。フランスで「農事功労章シュバリエ勲章」を叙勲し、日本でも「現代の名 工」「黄綬褒章」などを受賞。ルレ・エ・シャトー日本支部前副会長として、世界料理評議会委員、フランス料理アカデミーの正会員など、料理界の名門会員組織で要職を務める。

2024年1月現在の情報です。