豊かな食文化が息づく地を訪ねます。第1回は、京都・宇治へ。お茶のメッカで普茶(ふちゃ)料理とお茶の魅力にふれる旅は、茶師を目指す宇治・堀井七茗園の堀井成里乃さんと大丸京都店・食品部長の今井良祐さんにご案内いただきました。

和歌に詠まれた茶園

京都・宇治といえば、全国屈指のお茶どころ。お茶が日本にやってきたのは鎌倉時代の頃で、室町時代には宇治茶は天下一の銘茶として称えられるようになりました。室町幕府3代将軍・足利義満が宇治につくらせた7つの茶園は宇治七茗園と呼ばれ、「森、祝、宇文字、川下、奥ノ山、朝日につづく琵琶とこそ知れ」と和歌にも詠まれるほどの名園でした。
堀井七茗園は、その奥ノ山茶園を守り続け、お茶の栽培から販売までを行う老舗のお茶屋さん。6代目でお父様の長太郎さんのもとで、お嬢様の成里乃さんは茶師を目指し日々研鑽を積まれています。成里乃さんのご案内で、奥ノ山茶園へ到着しました。「ここが唯一、約650年前から続く宇治七茗園ですね!」と今井さんは茶樹を見渡します。

後世に残す
新品種を開発

650年の歴史の中で、先人の未来であった私たちに、つないでくれた奥ノ山茶園。ここにはかつて在来種の古樹が植わっていましたが、樹の衰えもあり、植え替えることになりました。成里乃さんのおじい様の信夫さんと、お父様の長太郎さんが、後世に残すべき茶樹を選び、約20年の年月をかけてオリジナル品種を開発されました。
「手塩にかけて育てられた新品種は、おじい様が『成里乃』と名づけられたのですよね。次代に茶づくりを託そうとされた志と愛情を感じます。」と話す今井さんに、「初孫だった私を可愛がってくれた祖父が大好きでした。私の名を銘に、『成里乃』が2010年に全国茶品評会で碾茶(てんちゃ)*日本一を獲得した時、私はまだ学生で、大変誇らしく、また少し恥ずかしさもあり、お祝いの席に参加させていただいたことを思い出します。」と成里乃さん。
そのお茶の「成里乃」とは、どのようなお茶なのでしょう?お抹茶の味は?「ふくよかな香りがして、旨みがギュッと凝縮された、何とも言えないまろやかな甘味が魅力です。苦みや渋みをあまり感じなくて、お子様も喜んで飲まれます。」
「足利時代から続く茶園を守る努力と新品種を生み出すチャレンジにも、感服するばかりです。」と今井さん。
*抹茶の原料となるお茶

日本茶の新たなブーム

茶園を後にし、お店で「成里乃」のお抹茶をいただくことになりました。味と香りを堪能し、「ほっ」とにこやかに顔を上げる今井さん。「香り立ちの良さが素晴らしいですね!」。成里乃さんも「点てる香りだけで『成里乃』とわかります。遠くにマロンのような独特の香り、アロマ?があるんです。」とうなずきます。
自身の名がつく茶樹と家業を、未来へ受け継ぐ成里乃さん。「茶業界に入ってから、『成里乃さんですね』と声をかけていただくことに驚きました。それだけ良いお茶を、祖父と父がつくってきたということ。このお茶に恥じないようにありたいと身が引き締まります。」
「これから挑戦したいことはありますか?」と、今井さんから成里乃さんに質問がありました。「日本茶の愉しみを若い世代にも発信していくような取り組みを始めたいですね。急須で淹れるお茶の魅力を伝え、もっと楽しんでいただきたいです。祖父や父のように自分の手で新たな茶樹を育て、私もいつか日本一の碾茶をと・・・夢です。」
「急須で淹れたお茶のおいしさは、格別。私も微力ながら日本茶の良さを伝え続けます。」とエールを送る今井さん。未来を想う志が、お茶のふくよかな香りとともにあたりに満ちるようでした。

2022年1月現在の情報です。

■堀井七茗園

〒611-0021 京都府宇治市宇治妙楽84
TEL 0774-23-1118
営業時間:8:30〜17:30 定休/土・日曜日、祝日の不定休ありhttps://uji-shichimeien.co.jp/